Googleが買収したDeepMind社は、汎用的な学習能力を持つ人工知能技術を開発しました。数ある人工知能の中でも、なぜDeepMindはここまでの注目を集めているのでしょうか。
数年以内に人類の生活を大きく変えるといわれている、DeepMind。デモや論文をもとに、その実力を探っていきましょう。
汎用的な人工知能、DeepMind
2014年、GoogleがDeepMindを買収した
画像引用元:http://www.deepmind.com/
2014年のはじめに、GoogleがDeepMind Technologies(以下、DeepMind社)を買収したニュースが流れました。このイギリスの企業が開発しているのが、人工知能(AI)であるDeepMind。
このDeepMindは、これまで知られていた人工知能とは一線を画す、驚異的な実力があると言われています。DeepMind社はイギリスに本拠を置く、設立間もないスタートアップです。「SOLVE INTELLIGENCE(知能を解く)」というミッションのもと、汎用的な人工知能の開発を行っています。
なお、DeepMind社を率いるのは、天才チェスプレイヤーとも言われるDemis Hassabis氏。アメリカの大学院で脳神経学を研究していたHassabis氏。人工知能の開発に力を注いだことも、自然な流れだったのかもしれません。
DeepMind社の公式サイト
http://www.deepmind.com/
DeepMindの学習アルゴリズムDQN
DeepMindが開発した人工知能として最もポピュラーなのが、学習アルゴリズムのDQN(Deep Q-Network)でしょう。DQNは、脳神経科学と機械学習を応用して開発されています。DQNの実力は、後述するゲームでの実験結果で確認しましょう。ゲーム画面の出力信号と「高いスコアを出す」という指令のみで動くDQNは、他の人工知能を大きく凌ぐのです。
DeepMindの驚異的な学習能力
画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=EfGD2qveGdQ
DeepMind社は、GoogleだけでなくFacebookも獲得に動いていたと言われています。DeepMindが世界中を魅了しているのは、なぜなのでしょうか?DeepMindが発表したデモや論文から、その実力を探っていきましょう。
デモ動画
Deepmind artificial intelligence @ FDOT14
https://www.youtube.com/watch?v=EfGD2qveGdQ
論文
Playing Atari with Deep Reinforcement Learning
http://arxiv.org/abs/1312.5602
4時間で人間を超える
DeepMindのすごさは、たった4時間で人間を超える結果を出していることです。デモを見てみましょう。動画の前半では、DeepMindがブロックくずし(Breakout)ゲームをマスターしていく様子が紹介されています。
このゲームは、画面下のバーを左右に動かして画面上(前方)のブロックをくずしていくものです。DeepMindは、ゲームの内容も操作方法も知りません。そのため、はじめは失敗してばかり。
しかし、1時間もすると初心者ほどの操作ができるようになっています。さらに1時間が経過すると、人間並の動きができるようになっていますよね。ゲームを開始してから4時間が経過したころには、なんとプロゲーマーを超えるレベルになっています。ブロックに一列の穴を空けて、裏側から一気にブロックをくずしています。ここまでくると、もはや離れ技と言えます。
念を押しますが、DeepMindはゲームの内容も操作方法も知らされていません。自らゲームのルールを把握し、難易度の高い技をやってのけたのです。しかも、ゲームをはじめてたったの4時間で。驚異的ですね。
あらゆるゲームをマスター
DeepMindが学習できるのは、ブロックくずしだけではありません。DeepMind社の論文によると、アーケードゲーム機Atari 2600用のゲームをプレイさせた実験結果があります。
スペースインベーダーやレーシング(Enduro)、パズル(Q*bert)などの多岐に渡るジャンルでDeepMindの実力を測定しています。結果はやはり、驚くべきレベルです。数時間で、人間と同等な、あるいは人間以上の圧倒的な結果を出しています。
画像引用元:https://www.cs.toronto.edu/~vmnih/docs/dqn.pdf
先ほどのブロックくずし(Breakout)での結果を見てみましょう。人間(human)が31というスコアに対して、DeepMindの学習アルゴリズムであるDQNはなんと168という高いスコアを記録しています。人間の5倍以上の結果ですね。
他のアルゴリズム(RandomやSarsa、Contingency)と比較しても、圧倒的に高いスコアであることがわかります。レーシング(Enduro)でも、最も高いスコアを出しています。
パズル(Q*bert)やスペースインベーダーでは、人間が記録したスコアには及ばないものの、他のアルゴリズムより高い数値を出していますよね。
圧倒的な学習スピードと汎用性
DeepMindと他の人工知能の最大の違いは、その圧倒的な学習スピードです。DeepMindの学習スピードは、従来の人工知能からの追随を許しません。上でご紹介した実験結果でも、やはり他の人工知能よりも高いスコアを出していましたよね。
DeepMindのすごさをもう一つあげると、それは汎用性です。これまでも、チェスや将棋などの競技で人間を凌ぐ人工知能はありました。しかし、それはチェスや将棋に限った話。チェスの人工知能は、ブロックくずしはできませんよね。DeepMindは、チェスもできます。将棋もできます。
ゲーム以外にも、株価の予測や人間との会話だってまかせられるようになるでしょう。人工知能の実用化に向けて世界中が注目している中、GoogleやFacebookがDeepMindに大きな魅力を感じたことも、容易に想像がつきますよね。
DeepMindの今後
Googleに買収されたDeepMind社は、GoogleのサービスにDeepMindを応用すべく日夜研究を行っているようです。数年以内には、この驚異的な技術がGoogleの各サービスへ利用されていくことでしょう。私たちの身近な生活にも、DeepMindが使われる日は近いのです。
DeepMindは汎用的な学習能力を持っているので、Google検索やレコメンド、ボイスサーチ、広告商品など、さまざまなサービスで活用されていくはず。さらには、自動運転車などの次世代テクノロジーを支える技術としても注目ですね。
一方で、DeepMind社はGoogleに買収されたのちも基礎研究に大きなリソースを割くことができているようです。DeepMindの開発がはじまってから、まだ5年もたっていません。DeepMind社の研究によって、ディープラーニングや機械学習を中心とする人工知能はさらに発展していくことでしょう。
【追記】人工知能「AlphaGo」最強棋士イ・セドルに勝利
DeepMindが開発した囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」ですが、2016年3月15日に5局に渡って繰り広げた「Google DeepMind Challenge Match」が終了しました。
結果は「AlphaGo(アルファ碁)」が4勝1敗でイ・セドルに勝利。第5局目では、4局目で勝利したイ・セドルに期待がよせられましたが残念な結果となりました。
囲碁界で「魔王」のあだ名のあるイ・セドル。この結果は、世界中の囲碁ファンが驚く結果となり、早くも再戦となるリベンジ・マッチの話題も出ています。
AIが人間を越すにはあと10年は掛かるだろうともいわれていただけに、この結果は囲碁というゲームでの勝敗だけを意味するものではありません。
多くのゲームでAIは人間に勝利してきましたが、「囲碁」というゲームのもつ軍を抜いた複雑性からAIが世界的プロ棋士に勝つまでには時間が掛かるとされていたのです。
今回の結果は、DeepMindの開発した学習アルゴリズム:ディープラーニングの情報処理能力・複雑な問題に対しての効率的な解決能力が今までのAIよりも優れ、独自で学習していく凄さを表しています。
話題のDeepMind社。今度は医療分野にも進出!?
今回の囲碁のニュースでますます注目を浴びるDeepMind社ですが、今年2月26日に今度は医療・健康分野への進出を発表しました。
「もしかして、手術まで人工知能がするようになるの?」と思うかもしれませんが、今回は医師が働きやすくなるスマホアプリのようです。
複雑な囲碁というゲームに勝利した結果から、これからの様々な分野への活用が期待されますが、医療には必ず「正解」があるわけではありません。結果が「勝敗」ではない、必ず正解があるとは限らない分野では人間の力に近づくことよりも人間をサポートすることに利用する方が良いという一面もあるようです。
「学習することの可能な人工知能」が、今後も色々なところで役立っていくことに期待ですね。
あとがき
人工知能として圧倒的な存在である、DeepMind。人類の生活に革命的な変化をもたらしてくれる、期待の最新技術ですね。ところで、DeepMindを中心とする人工知能にはリスクがあると言う人もいます。
例えば、SpaceX社のイーロン・マスク氏や理論物理学者のホーキング博士など。DeepMindをどのようにコントロールしていくのかも、人工知能の実用化に向けてのキーポイントになってくるでしょう。
「独自で学習する」という新しい面を持った人工知能の今後の活躍が楽しみですね。